第8回 「EL CHANKO〜DJ Aicongaの音楽雑記」

 脱力系パーティーミュージック「ブーガルー」

 いよいよ夏、ラテン音楽のハイシーズン到来です!今回は、激しすぎずロマンティコすぎず、シンプルなビートで誰でも踊れる「ゆるゆるパーティミュージック」のBoogaloo(ブーガルー)を紹介します。

 ブーガルーは、およそ1965〜1970年という短い期間にNYで流行したラテン音楽です。

 それまでラティーノたちが日常的に聴いていたマンボやチャチャチャなどの音楽と、ソウルやR&Bといった黒人音楽が、スパニッシュハーレムでのパーティで若者に演奏されるうちに混ざりはじめ、スペイン語と英語の混在する新世代のムーブメントとして産声を上げました。

 すでに移民の子供たちはバイリンガル化していたし、親世代の純粋なラテン音楽がNY育ちのキッズにとって物足りなくなり、時代に合うようにアップデートされたのは当然の流れでしょう。

 しかし、そんなティーンエイジャーをはじめとした若手プレイヤーにはアマチュアも多く、当時のブーガルーの音楽的クオリティは高いとは言い難いものでした。今聴いても「酔っ払ってます??」と言いたくなるようなズルズルの演奏に笑ってしまうことがあります。

 ファニアレーベルも流行りに乗ってブーガルーを取り入れるようになりましたが、トップクラスのラテンミュージシャン達には不人気だったようで、ティト・プエンテには「ブーガルーは最悪だった。ビジネスだから嫌々やっていた」とバッサリ斬られる始末。

 このように賛否両論あったブーガルーですが、その「ゆるさ」「けだるさ」、人を舐めてかかるような「脱力感」が、逆に他のラテン音楽にはない中毒性を生み出していたと言えます。

 私は20歳頃に知人の貸してくれたアルバム「Our Latin Thing vol.1」でこの音楽と出会いました。それまでの洗練されたラテンのイメージとのギャップに大きな衝撃を受け、「私もブーガルーのバンドをやりたい!(=これぐらいならできそう)」と、メンバー集めに奔走するほどハマっておりました。

 その代表曲として、よく2曲セットで紹介されるのが「King of Boogaloo」であるPete “El Conde” Rodriguezの「I like it like that」と、Joe Cuba Sextetoの「Bang! Bang!」です。

 「誰でも踊れるパーティミュージック」というブーガルーの理念(?)を踏襲しつつもラテンの基本を押さえたメロディで、一度聴いたら忘れられないキャッチーな2曲です。

「I like it like that」は2018年にドミニカ系のCardi B、プエルトリコ人のBad Bunny、コロンビア人のJ・Balvinというポップスター3人組の曲にサンプリングされ、ビルボードHot100で1位を記録。ブーガルーファンにとっては嬉しい出来事でした。

 Joe Cuba Sextetoの曲では、映画「Salsa!」のサントラでカバーされたこの曲も有名です。60〜70年代のラテンが好きな方なら、イントロの口笛だけで即座に「El Pito!!」と反応するでしょう。

これぞブーガルーのお手本!というキャッチーさですね。

 次は、少しアッパーなブーガルー。ソウルフルで前のめりなリズムが印象的なKako y su orquestaの「Kako’s boogaloo」です。

 リーダーのカコはティト・プエンテと並ぶプエルトリコ出身の名ティンバレス奏者で、プロデューサー・作曲家としても活躍しました。この曲が収録されたアルバム「Sock It To Me Latino!」は彼の豊かな才能がもっとも感じられる1枚で、ハラハラやボンバ、ボレロなど曲調は多岐に渡りますが、どれも名曲ばかりで驚かされます。

 こちらは渋めの1曲。

実力派バンドOchoのリーダー、チコ・メンドーサの別ユニット「La crema de New York」が、Warの「The Cisco kid」をスペイン語を交えてカバーしたものです。 原曲以上にワルで猥雑で西部劇的アレンジは、ビブラフォン奏者でプロデューサーのルイ・ラミレスが手掛けたもの。さすが「サルサ界のクインシー・ジョーンズ」呼ばれた男です。

 最後に、このハッピーな音楽の愛称「ブーガルー」が、近年では全く異なる意味を孕んでしまっていることを付け加えておきます。

 昨年、ミネソタ州で黒人男性が白人警官に拘束された際に死亡し、「Black lives matter」という合言葉とともに大規模なデモが各地で起こりました。

 デモのほとんどは平和的でしたが、その中で暴力行為を扇動し、逮捕・起訴されていたのが、以前からアメリカ各地で活動していたブーガルーという武装した極右過激派です。

 音楽のブーガルーと直接の関係は薄いようで、歌手のジョー・バターンも「ただ無知のためにその言葉が使われているだけ。気にする必要はない」とコメントしていますが、れっきとした文化的背景を持つ音楽の名が、白人至上主義や銃社会、暴力を支持する勢力に称されてしまっていることは、とても歯がゆく残念に思えます。

この記事を書いた人

京都外国語大学イスパニア語学科卒。 20代前半でキューバへ渡りパーカッションの修行を積む。以来、パーカッショニストとして活動しつつ、ラテン音楽やアフリカ音楽を中心としたDJ活動をスタート。京都のBarビバラムジカにて、ラテンパーティ「Our Latin Way」を毎月第三土曜に開催中。

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