第5回 「EL CHANKO〜DJ Aicongaの音楽雑記」

Johnny Pacheco逝去〜Faniaを振り返る①

これを書いている数日前、フルート奏者、作曲家、音楽プロデューサーであるJohnny Pachecoが85歳で亡くなりました。

 晩年は活動していなかったとはいえ、サルサの創始者とも言える彼の死はラテン音楽界にとって大きな悲報であり、多くのアーティストが哀悼の意を表しました。

 幼少期にドミニカからNYに移住しミュージシャンとなった彼は、1963年に弁護士のジェリー・マスッチと共に、押しも押されもせぬ伝説のNo.1サルサレーベルとなるファニア・レコード(以下ファニア)を設立しました。

 ファニアといえば「サルサのモータウン」と例えられることが多いのですが、そもそもモータウンって何?という方も多いと思うので、もっと分かりやすく言うとサルサ界の石原軍団とか、吉本興業とか、おニャン子とか、ジャニーズ、でしょうか。とにかく数々のスーパースターや歴史的な名曲を輩出したアーティスト集団ということです。ファニア無しに現在のラテン音楽シーンは存在しないと言っても過言ではありません。

 まず、当時のファニアの活動やその背景となるNYのストリートをリアルに記録した映画、1972年に公開された「Our Latin Thing(Nuestra Cosa)」をご覧ください。

 サルサといえば陽気で明るいカリブのダンスミュージックというイメージがありますが、犯罪と貧困の蔓延した大都会NYの移民街から生まれた不良の音楽、プエルトリコやキューバ、アフリカなど多様なルーツが混濁したミクスチャー音楽、などと言えば、その印象も変わるでしょう。

 さらにこの映画を観ると、この頃のサルサがどことなく反骨精神を孕んだ熱狂的で生々しい音楽だったことが伺えます。

 実際に、ロックやパンク、ポップスなど、ラテン界以外でもファニアに影響を受けたという人は多数います。

 日本だと、サザンオールスターズという名前はファニアオールスターズが由来ですし、ユースケ・サンタマリアさんもファニア在籍のパーカッショニスト、モンゴ・サンタマリアに倣って名付けられています。

 アフリカでは、コンゴ音楽の父と呼ばれるパパウェンバが、自身のバンド名をファニアの曲に倣って「Papa Wemba&Viva La Musica」と名付けています。

 パパウェンバがファニアの演奏を観て感銘を受けたというのは、1974年にザイールはキンシャサで行われた、モハメド・アリの世界タイトルマッチを記念した音楽フェス「ザイール’74」でのこと。ファニアオールスターズはジェームス・ブラウンやB.B.キングなどと共に、アメリカから自分たちの音楽的ルーツであるアフリカに回帰するという大義名分をもって参加しました。

 8万人ものアフリカの観客を熱狂させ、のちに「ブラック・ウッドストック」と呼ばれた圧巻のステージは、ファニア目線の「Live in Africa」、ジェームス・ブラウン目線の「Black Power」、モハメド・アリ目線の「モハメド・アリ かけがえのない日々」という3本の映画に記録されています。

なにしろ一行が空港に着いただけでこの騒ぎです。これ空港ですよ。

一方のメンバーも、機内からこの騒ぎでしたが。これ機内ですよ。

 ちなみに、ガーディアン紙で「世界で最も影響力を持つ女性100人」に選出されているベナン出身のアーティスト、アンジェリーク・キジョーも、この74年のアフリカツアーでファニアに影響を受けた一人。

 14歳の時にツアー中のベナンで観たセリア・クルス(ファニアを代表する女性歌手)に感銘を受けたという彼女は、2019年にセリアのカバーアルバム「Celia」を発表し、グラミー賞「最優秀ワールド・ミュージック・アルバム」を受賞しました。

こちらはセリアの代表曲「Quimbara」をカバーしたもの。

 ドラムにトニー・アレン、ベースにミシェル・ンデゲオチェロを迎えた骨太なアフリカンサウンドと、少しつたないスペイン語の発音(私が言うのも何ですが)がエキゾチックです。

 このアルバムのワールドヒットを機に、それまでセリアを知らなかった層が彼女の名曲達を聴くようになれば嬉しいですね。

 ファニアについてはネタが尽きないので、次回に続きます。

この記事を書いた人
Aiconga

京都外国語大学イスパニア語学科卒。 20代前半でキューバへ渡りパーカッションの修行を積む。以来、パーカッショニストとして活動しつつ、ラテン音楽やアフリカ音楽を中心としたDJ活動をスタート。京都のBarビバラムジカにて、ラテンパーティ「Our Latin Way」を毎月第三土曜に開催中。

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