第11回「イタリア映画よもやま話」

イタリアNetflixオリジナル映画の傾向と対策

ネットフリックスのオリジナル作品では黒人が主人公の比率が高いという調査報告書が発表された。これについて新聞記事などでは、白人主体の映画産業の慣習を変える試みとして大いに評価されている。確かにネットフリックスでイタリア製作のオリジナル作品を鑑賞していると、黒人が出てくる率が高いなとは感じる。移民が多い現代イタリアの時代性や土地柄を考慮すると、黒人が出てくる設定には、特に違和感を覚えない。だが、まるでそういったマニュアルがあるかのような映画作りはいかがなものか。

 この問題を考える材料として、夏のアドリア海岸沿いの町を舞台にした恋愛群像劇『サマータイム』を取り上げたい。イタリア中部のアドリア海岸沿いは、夏のバカンス・シーズンになると、海水浴客でにぎわうことで知られている。輝く太陽、青い空の下のビーチで、恋をする若者たち。そんな物語の中心となるのが1995年生まれの人気若手俳優ルドヴィコ・テルシーニ演じるアレと、アフリカにルーツを持つココ・レベッカ・エドガメ演じるサマーだ。エドガメは、2001年ボローニャ生まれで、このドラマでデビューした、注目の移民二世女優だ。アレは有能なバイクレーサーだが現在はスランプ中。コーチをしている父親からもプレッシャーをかけられている。サマーは外国への進学を目指す自尊心の強い高校生。ミュージシャンの父親と情緒不安定な母親を気にかけつつ、妹の面倒も見るしっかり者だ。まったくタイプの違う二人が、プール貸し切りの盛大なパーティーで出会う。最初は、強引なアレを嫌がっていたサマーだが、彼の人となりを知るにつれて徐々に惹かれていく。

原作は2000年代前半に人気を博したヤング・アダルト小説『空の上3メートル』(Tre metri sopra il cielo)で、すでに原作を忠実に再現した映画も公開されているのだが、冒頭で述べたように、ヒロインを黒人にするなど設定をアップデートして、2020年代の青春映画として仕上げられている。

もう一つ注目したい要素が、作中で雰囲気を引き立てるために使われる楽曲、いわゆるサウンドトラックだ。メジャーのレコード会社がテーマ曲をタイアップするという手法ではなく、イタリアのスタイリッシュなインディーズ・ミュージックが、主人公サマーのスマートフォンから流れてくる。いわば音楽配信サイトのプレイリストのような感覚に近い。なかでも私のお気に入りは、VVというミラノの女性シンガーの『目薬』(Corillio)というバラードだ。『サマータイム』シーズン2の最終話、夏が終わり、主人公たちが再び離れ離れになっていく場面で、寂寥感の漂う砂浜をバックにこの曲が流れる。

Fine fine 「おしまい」

Questa parola fa schifo, ma なんて嫌な言葉、でも

Ci serve un punto preciso はっきりした一点が

Un confine, finché 境界線が私たちには必要

Poi sarà tutto finito, e すべてが終わって

E sarà solo collirio che 瞳からこぼれる

Cade dagli occhi 目薬になるまで

Youtubeの動画では再生回数20000回も越えない程度の、マニアックな女性シンガーが、ネットフリックス肝いりのオリジナル作品の最重要シーンで使われるというギャップがなんとも痛快だ。また、「気持ち悪さ、嫌悪感」(schifo)や「目薬」(collirio)など、一般的に詩的とみなされていない言葉を歌詞に取り入れる言語感覚も、若手のインディーズ・ミュージシャンならではという印象を受ける。つまり『サマータイム』は最先端の音楽とドラマが合わさった作品なのだ。

さらに考えてみると、こういった最先端の映像や音楽は、南ではなく、中部以北のイタリアのセンスだと感じる。『サマータイム』の舞台は中部のアドリア海岸だし、VVも北イタリアのミラノ在住だ。ローマやナポリ、シチリアというふうに南へ下れば下るほど、もっと粘着質の、土臭い要素が増してくる。イタリア北部を代表するミラノと、南部寄りのローマは、オシャレな東京とこてこての大阪に例えられることもあるが、「オシャレ」という言葉では括り切れない北イタリアの空気感を『サマータイム』は確かに醸している。

などと御託を並べていたら、主人公が黒人であることはすっかり気にならなくなった。結局は作品の面白さがすべてだし、黒人がたくさん登場することでイタリアの映画やドラマに新たな表現が生み出されるなら大歓迎だ。最新のイタリアウォッチャーである私はそう思っている。

この記事を書いた人

観光ガイド、翻訳家 2012年ローマ第三大学文学部を卒業。観光ガイドの傍ら、翻訳、映画評論などに従事。訳書にガブリエッラ・ポーリ+ジョルジョ・カルカーニョ『プリモ・レーヴィ 失われた声の残響』(水声社)。

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