第6回 「EL CHANKO〜DJ Aicongaの音楽雑記」

Johnny Pacheco逝去〜Faniaを振り返る②

前回のコラムで述べたように、ファニアというレーベルは数多くの才能を発掘し、ラテン界の歴史に残るスターを輩出しました。

 今回は、その中から歌手にスポットを当てて紹介したいと思います。

 中でもトップ中のトップスターと言えるのが、”El cantante de los cantantes”、エクトル・ラボーでしょう。

(プエルトリコ土産。裏はなぜか栓抜きになっている)

 鼻にかかった特徴的な歌声と、繊細で影のあるリリック、そしてファニアのメンバーが総力をあげて演奏するゴージャスな楽曲たちは今でも多くのラティーノに愛されており、クラブやラジオなどでプレイされるとすぐに合唱が起こります。

エクトルはプエルトリコからNYに移住し、20歳のころ、同じくプエルトリコ系のトロンボーン奏者”El malo”ウィリー・コロンとタッグを組んで活動するようになりました。ウィリーも当時17歳(ファニアと契約した当時は若干15歳!)というイケイケな年齢だったためか、ストリート感覚で皮肉たっぷりの不良キャラを全面に打ち出し、瞬く間に絶大な人気を誇るタッグになりました。この当時のジャケットはどれも本当にカッコいいです。

 その後は、押しも押されもせぬトップスターに君臨するものの、精神的なプレッシャーからドラッグに依存するようになり、注射器の回し打ちが原因でHIVに感染し、46歳の若さで世を去ってしまいます。

 この動画はそのお葬式なのですが、大勢の人が泣いたり笑ったりして太鼓を演奏し、歌い、サルサを踊る、まるでお祭りのような愛の溢れるセレモニーです。泣けます。

 彼の生涯は、キューバ系の映画監督、レオン・イチャソにより映画化されています。代表曲もほぼこの映画に収められていますので、ぜひチェックしてみてください。

 エクトルを演じているのは同じプエルトリコ系のラテン歌手であるマーク・アンソニーで、ダンスから歌い方からドラッグによるげっそり感まで、かなり忠実に再現していると思います。実妻であったジェニファー・ロペスと夫婦共演したことも話題になりました。

 前述した監督のレオン・イチャソは、「クロスオーバードリーム」というNYの当時のサルサシーンを描いた映画も撮っています。

 この脚本を書き主演を務めたのが、次に紹介するルベン・ブラデスです。

 ルベンはパナマ系の歌手であり、少しタレ目の甘いマスクを武器に、80年代からは俳優としても多くの映画(最近では「フィアー・ザ・ウォーキング・デッド」)に出演。またパナマの大統領選に立候補したりと、現在に至るまで積極的にマルチな活動をしています。

 70年代に郵便の仕分け屋としてファニアに就職したルベンですが、アーティストとしての才能が認められてからは、自らマイクを握るだけでなくエクトルの代表曲「El cantante」を作曲するなど強力なソングライターとしてもファニアレーベルを支えてきました。

 エクトルの相方ウィリー・コロンはルベンともタッグを組み、1978年にリリースした2人のアルバム「Siembra」では、当時のサルサレコード史上最高の売り上げを記録しました。

 その中で最もヒットした曲がこちら「Pedro Navaja」です。

 この曲の生んだ名フレーズ「La vida te da sorpresa,sorpresa te da la vida」を、私も人生訓として様々な局面でよく呟いています。

 最後に、女性歌手です。ファニアの顔であるセリア・クルスについては前回書いたので、ここではセリアの影に隠れがちなもう1人のクイーン、ラ・ルーペを紹介します。

 キューバ革命を機にメキシコへ亡命した歌手ラ・ルーペは、音楽活動の場を求めてNYに移住し、その破天荒な芸風で世間に衝撃を与えました。モンゴ・サンタマリアやティト・プエンテといったパーカッションの名手たちをパートナーに選んだのは、彼女がパンチの効いた音やスピード感を重視したからでしょう。

 ヘミングウェイをして「狂乱の芸術だ」と言わしめたエキセントリックなステージングはこちら。さらに衝撃的なパフォーマンス動画も残っているので、興味がある方は検索してみてください。

 このパワフルさと狂気は、ちょっとヤバい人と紙一重な感じがしませんか。実際に、彼女には歌いながら服や靴を脱いでいくという癖があるようなのですが、プエルトリコでは全国放送の授賞式にもかかわらず脱ぎまくって(どこまでかは不明)テレビ界から追放される、という事件を起こしたほどです。

 さらに、過激な言動やドラッグ問題も原因になったのか、ファニアは徐々にルーペから手を引き、セリア・クルスのプロモーションに注力するようになりました。狂気のラテンソウルクイーンはいつのまにかセリアの影に隠れてしまい、1980年に引退。その約10年後に、人知れずひっそりと亡くなりました。栄光の中で多くの人に惜しまれながら世を去ったセリアとは対照的な最期だと言われていますが、その破天荒な生き様とパフォーマンスは死後また再評価されるようになりました。特にゲイのラティーノたちの中では根強い人気があり、ドラァグクイーンのショーでは彼女を模倣するダンサーが後を絶たないそうです。

ファニアについては、まだ書ききれないので③に続きます…

この記事を書いた人

京都外国語大学イスパニア語学科卒。 20代前半でキューバへ渡りパーカッションの修行を積む。以来、パーカッショニストとして活動しつつ、ラテン音楽やアフリカ音楽を中心としたDJ活動をスタート。京都のBarビバラムジカにて、ラテンパーティ「Our Latin Way」を毎月第三土曜に開催中。

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