第9回 「EL CHANKO〜DJ Aicongaの音楽雑記」

西製HipHop〈女性編〉

語学を勉強する人なら誰しも、独自の訓練法というものをお持ちではないでしょうか。日記を書く、毎朝ぬいぐるみに話しかける、外国語のレシピで料理を作ってみる、などなど。

 音楽を聴く、というのもよくある手法ですね。

 私もスペイン語を始めた当初は、先生が勧めてくれるままに耳障りの良いバラードやコテコテの演歌のような懐メロを聴いていたのですが、ハードコアやHipHopに傾倒していた尖ったナイフの20歳にとっては「果たしてこれがリアルな現地の音楽なんだろうか?」という疑問が拭えませんでした。

 そこで思いついたのが、スペイン語のラップを聴く、というトレーニングです。

 早口だし訛りが強いしスラングも多いし、最初は呪文のようにしか聴こえませんが、少しずつ内容が掴めるにつれ、現地の若者が何に不満を抱き何を訴えたいかをリアルに感じられるのがラップの魅力です。さらに聴き込むと、言葉だけでなくビートにも多様な地域性が見えてきますよ。

 というわけで、今回からは私が聴いてきたスペイン語圏のラップ音楽からオススメを紹介していきます。一度に紹介しきれないので、まずは女性編からスタート!

  1人目は、スペインのAid。ポルトガルとの国境に近いVigoという街で生まれた彼女は、その地をタイトルに冠した「BoogieVigo」という曲で頭角を表しました。

 彼女の特徴は、ガリシア語の曲を多く発表していること。ガリシア語の古典の詩をHipHopに落とし込んだアルバムをリリースしており、「Apréndeo」という曲は、Youtube上で最もよく聴かれているガリシア語の曲とされています。

ワルぶらない、知的な美しさが彼女の魅力です。PVがちょっと地味なのが残念ですが。

 次は、キューバを代表する女性ラッパーTelmary。キューバ人にしてはそこまで訛りが強くなく、聞き取りやすいラップですね。

 彼女はLos van vanやInteractivoと共演するなど、昔からDJをバックにするよりも生演奏に重きを置いており、現在はこちらのHabanasanaというバンドを率いて活動することが多いようです。

ベースを弾いている女性もクール。

今年5月に出したニューアルバムでは、Alexander AbreuやOmara Portuondoなどの大御所をはじめ、今や引っ張りだこのラッパーKumarやパーカッショングループのOsain del monteなど、キューバ音楽好きなら誰もが「お、聴いてみようかな?」と思ってしまう豪華ゲスト陣を起用しています。

▲▲▲ NYで観たTelmaryと、終演後に周囲のファンに配ってくれた薔薇の花。

 次は、メキシコはモンテレイを代表するラッパーで、現在はロス在住のNiña Dioz。

こちらは10年前の曲ですが、コロンビアのポップスターLi Saumet(Bomba Estereo)と共演したものです。PVがポップで可愛くてスペイン語も聞きとりやすいので、何度も何度も繰り返し聴いた思い出の曲です。

 Niñaはロスに移住してからしばらくウェイトレスとして働いていましたが、そこで同じ中南米出身の同僚たちと働いたことが彼女に大きな影響を与えたそう。「彼らはラティーノであることの誇りを教えてくれた。カリフォルニアンラッパーにはなりたくない、どこにいても私はメキシカンラッパー」とインタビューで語っています。

 また、同性愛者であることを公言していることでも世間の注目を集めています。

 最後にもう一組、キューバではLGBTQ活動家としても有名になったKrudas(現・Krudxs) Cubensiを紹介します。

 キューバ出身でテキサス在住のKrudxs Cubensiは、大きな体に髭をたくわえたビジュアルが印象的なOdaymaraと、長身でパンキッシュなOliviaのデュオで、この2人は恋人同士でもあります。

 90年代半ばにOdaymaraの妹も交えた3人で音楽活動を始め、まだ男性優位社会で同性愛者への理解も乏しかったキューバで、フェミニストかつレズビアンとして、音楽を通じて声を上げてきました。

 そのうち海外のフェスにも招待されるようになりましたが、キューバ政府からことごとく渡航を拒否されたのをきっかけに、彼女達はメキシコ経由で米国に亡命しました。

 より自由に活動できるようになった彼女たちは、アフロ・カリビアン移民、レズビアン、フェミニスト、菜食主義者といった自分たちのアイデンティティを全面に打ち出し、「私たちはマイノリティじゃない、私たちは私たちだ。自分を犠牲にするのはやめよう」と、差別や偏見に悩む人たちに力強いメッセージを送り続けています。

 締めくくりに、「Mi barba」というOdaymaraのポエムをご覧ください。

 大きな胸をあらわにし、髭を伸ばし、誇らしげに歩く彼女の姿は、私たちが抱えるアイデンティティにまつわる迷いを、すべて吹き飛ばしてくれます。

次回は「男性編」をお送りします。

この記事を書いた人

京都外国語大学イスパニア語学科卒。 20代前半でキューバへ渡りパーカッションの修行を積む。以来、パーカッショニストとして活動しつつ、ラテン音楽やアフリカ音楽を中心としたDJ活動をスタート。京都のBarビバラムジカにて、ラテンパーティ「Our Latin Way」を毎月第三土曜に開催中。

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