第10回 「EL CHANKO〜DJ Aicongaの音楽雑記」

西製HipHop〈男性編〉

スペイン語圏のラッパーを紹介するシリーズ、今回は「男性編」をお送りします。

 Daddy YankeeやDon Omar、Bad Bunnyなど、ここ数年名の知られている方々は置いておいて、今回は私が最もハマっていた2000年代のラッパーおよび作品を紹介していきたいと思います。

 まず最初は、メキシコシティ出身のクールガイ、Bocafroja。

 暴力的な歌詞を好む「ギャングスタ系」が中心だったメキシコにおいて、ジャジーで抑えめなサウンドと、社会問題をテーマにしたポエティックな「聴かせる」ラップで、彼は同国のシーンにおいて特異な存在となりました。

 私も、マッチョなオラオラ系が幅を利かせているメキシカンラップに辟易としていた頃に、彼の関わった作品に出会い、中南米のHipHopへの印象がガラッと変わったのを覚えています。

この曲はそのうちの一つ。

このイントロだけでテンションの上がる方も多いでしょう。なんたって元ネタはNYが誇るサルサの貴公子、Hector Lavoeの歌う「El dia de mi suerte」。希望と絶望の狭間でこの歌詞を書いたであろうHectorの悲しげな歌声が、ラップと相まって胸にグッと突き刺さります。

 次は、同じく社会派ラッパーの代表格となった、Calle13のリーダーでプエルトリコ出身のResidente。

 この曲のように、最初は下ネタ満載のおバカなレゲトンラッパーという印象でしたが、中南米で暮らす人々のアイデンティティを歌った「Latinoamérica」辺りから、徐々に社会問題をテーマにしたシリアスな曲が注目されるようになりました。

 2013年にはパレスチナ人シンガーKamilya Jibran、Rage Against The MachineのギタリストTom Morrero、内部告発や情報漏洩の情報を伝えるサイト「ウィキリークス」の創始者Julian Assangeという異色のメンバーと組み、マスメディアの腐敗を訴える「Multi Viral」という曲をリリース。翌年にはその音楽活動や社会支援が評価され、ラティーノで初めてノーベル平和サミット賞を受賞しました。

 パレスチナで撮影された「Multi Viral」のPVは、少年が人目を盗んでライフルのパーツを集め、カスタムギターを完成させる!そして、丘の上でTom Morreroと共に弾きまくる!という、パンク・ロック好きの胸を躍らせるストーリーとなっています。https://youtu.be/EjSCy1GC6Sc

 続いては、「Pa’l Norte」という曲でResidenteとも共演しているHipHopグループ、Orishasです。

 彼らはヨーロッパを拠点に活動していますが、キューバでも幾度となく凱旋ライブを開催しています。99年にスペインのレーベルから「A lo Cubano」というアルバムを発表した際には、カストロ議長が彼らのためにパーティを主催し、キューバ初の「政府公認」HipHopミュージシャンとなりました。

 ソンやルンバといったリズムを多用し、歌詞にもキューバ特有の宗教的なワードを散りばめるなど、どの作品を聴いてもキューバ産だと即座に分かるところが彼らの持ち味です。

 現在はキューバでもラッパーの海外進出が進んでいますが、Orishasのように90年代から海外で活躍していたケースは珍しく、彼らは現在でもキューバンHipHopを世に知らしめたパイオニアと言われています。

 上の動画は2009年にキューバの革命広場で行われた大型フェスでのOrishasのLiveです。

 その動員数は、なんと「100万人」!世界一のキャパを誇る北朝鮮のメーデー・スタジアムでも最大収容人数は11万4千人で、その約9倍です。この動画を観ると嘘ではなさそうですよね。こんなクレイジーなフェスを国を挙げてやってしまうなんて、さすが音楽大国キューバ。

 さて、締めくくりに、スペイン語のラップ番組を二つ載せておきます。HipHop好きの方、よりフランクなスペイン語に触れてみたい方はぜひチェックしてみてください!

 ちなみに、両番組に登場しているNFXというチリ出身の若手ラッパーが、私の最近のお気に入りです。

 まずは、チリ発の「Casaparante」。

 こちらはサンティアゴの高層ビルで開催されている、ラッパーを中心とした配信ライブパーティです。現在はコロナのため無観客なのが寂しいですが、この動画のように、夜景をバックにアーティストもギャラリーも一体となって楽しんでいる様子が、いかにもラテンアメリカの都会の週末といった感じでワクワクさせてくれます。

 一方、こちらの「The sypher effect」は、複数人がラップを繋いでいくサイファーというスタイルを中心とした番組です。(こちらもコロナ以降は内容が変わっていますが) 

 この回ではチリ、コロンビア、ベネズエラ出身の四人のラッパーが軽快にマイクを回しています。この番組は中南米のあらゆる国から出演者をチョイスしており、アーティスト同士の交流にも一役買っているようです。

 さて、この連載も残りわずかとなってきました。次回は、日本でも認知度の高まってきているダンスミュージック「Cumbia」を紹介したいと思います。お楽しみに!

この記事を書いた人

京都外国語大学イスパニア語学科卒。 20代前半でキューバへ渡りパーカッションの修行を積む。以来、パーカッショニストとして活動しつつ、ラテン音楽やアフリカ音楽を中心としたDJ活動をスタート。京都のBarビバラムジカにて、ラテンパーティ「Our Latin Way」を毎月第三土曜に開催中。

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